Orphan
「なぁ〜にかにつーけえーてーバ〜トル〜!!」
調子っぱずれの歌声…というよりもがなり声が黒い枯木の森に響いていた。
声の主は藍の長髪を持つ美青年であった。
腰にシミターを吊るしているもののそれはいかにも邪魔げに腰の後ろへ回され、
左利き用のギターを抱えてかき鳴らしている。
ストリートライブならそれもよかろうが、
彼の歌の聞き手はラの乱れの影響を受けて巨大かつ凶暴に進化したモンスターだけだった。
魔物が傍に寄って来るのに明らかに気がついていながら、青年はギターを離さない。寧ろますます声を張り上げた。
「いーつでもいーつーもーバートル〜…」
「どれーっ、じゃかぁしわボケエぇぇぇぇぇ!!」
次の瞬間ひどいダミ声と共に踊りこんできた黒い影に場は騒然となる。
「ぅ、うわあああああ!?」
「はよう去ね!!走るんじゃ!!」
「え、え、えええええええええ!?」
嵐のように二人の人影が(一人が一人を引きずる形であったが)去った後、
取り残された2匹のリザードフライは顔を見合わせ、次の瞬間、無軌道に飛んでいった。
「ぜえ、ぜえ…」
「あ〜、せこ」
マカルの西の山まで逃げたところで二人はついに倒れた。
ダミ声の男が息を整えて先に起き上がり、枯れ木に背中を預けて、蜘蛛のように長い足を組んだ。
「アホかおまはん。なんしにレイのあんなど真ん中でドヘタクソな歌うととったんじゃ」
「だってボク死にたかったんだもん」
「はあ?」
聞き返すと、変わらない抑揚で、
「ボク、帰るところがないんだ」
乾いた秋晴れの空を見上げながら青年はぶすっと呟いた。
「国を見捨てて逃げ出してきたんだ。フォレスチナは占領されちゃった。王ももうすぐ処刑される…
もう生きてたって意味が無い」
「何言よんじゃ、見捨てて逃げたんやったらあんじょういったやないか。普通に生きとれだ」
「見捨てた自分が嫌になったの!ボクそんなんばっかりだ。また、また逃げるのかって…
そんなことばっかりして自分が生きる価値なんかないくせにさぁ、もう嫌なんだよぉ」
最後は泣き声になり、青年は寝転がったまま手足をばたつかせた。
「なんや知らん、つべくそ言うやっちゃな…」
男は呆れ顔で呟いた。
「おい、路頭に迷とうけん死にたぁなったんだったら、わしについてこいだ。なんとかしたんで」
「え?本当…?」
「ほの代わり、もう死ぬやなんや言われんじょ。うっとしいけんな」
「う、うん…ていうか君、さっきから何言ってるのか全然わかんないよ」
「ほうやろな。なけどほのわりには通じとう気がすんで。いけるんちゃうか」
青年は大地に大の字になったまま、隣に立っている痩せぎすの顔の男を見上げた。
「どこに行くの…?」
男はにやりと笑い、遥か南の山麓に見える寂れた集落を指差した。
「エルファリア抵抗軍じゃ」
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