CROW

その朝、内海はひどい時化であった。 海岸には噎せるような匂いの潮風が吹き荒び、一帯は濃霧に沈んでいた。 晴れた日にはフォレスチナ国へ続く長い吊り橋を遠方の岬に臨むことができるが、今は灰色の霞で覆われてまったく見えない。 ワイルは一人、波飛沫のかかって消えてしまった煙草を咥えたまま――点け直してもどうせまた消えるのだ――、 砂の削り取られていく波打ち際を見ていた。 灰色の砂浜のひとところには烏が群がっていた。 黒が虫のように蠢いている。一体何羽いるのか、数えることができない。 海岸沿いの樹林の中には烏がたくさん住んでいるのだ。彼らは常に飢え、痩せた木々に実るわずかな果物や巣をつくる場所を奪い合って醜く争っている。 こんな時化の日に、飛んでくる海水や暴風にも構わず何をしているのだろうか。 ワイルは特に興味も持たず遠くからその様子を見ていたが、その時風向きが変わった。 烏の猛った鳴き声。 アー、アー、ア”−、ア”− アー、アー、ア”−、ア”− 潮の香の中に何か異様な臭いが混ざっている。 「…!!」 それに気が付いてワイルが一歩踏み出したその時、 後ろからビュウと風を突き破って飛んできた矢が烏の一羽を射ぬいた。 振り返るとトリアスが立っていた。 烏たちは息絶えた一羽を地上に残し、怒りの声をあげながら三々五々散った。 藍の髪を風に乱しながら、トリアスは次の矢をつがえ引き絞って、言った。 「腐肉を食らった烏はテンマになるので、その前に射殺さなくてはならない」 烏がいなくなった後に残っていたのは、もはや形をとどめていない土左衛門だった。 「エルフの古い言い伝えだ」 仲間がひとり犠牲になったぐらいで、せっかくありついた食べ物を諦めはしない。烏たちは再び集まり始めた。それをトリアスは次々と射る。 「ほんまにそうなんか?」 「さあ。エルフは不浄なものを嫌うからね。それだけかもしれないよ」 「…。お前、ほんなようわからんもん、律儀に守るような性格やったで?」 「従わなくてはならないと思っているわけじゃないよ。同感だからだ」 トリアスの目に光はなかった。侮蔑も憐憫もなく、ただただ壁の的を狙う稽古のように、つがえ、引き絞り、射ち、そしてまたつがえた。 「…」 ワイルは目の下に皺を刻んだ。煙草を砂の中に足で埋めると、海に背を向けて歩き出した。 「円匙を取りに去(い)ぬ」 同じころ、レジスタンスのアジトではパピが一悶着起こしていた。 羽が折れた鳥の雛を拾ってきたのである。 雛はかなり弱っているのか鳴くこともせず、うつむいて目をつぶり羽毛を逆立てて震えていた。 「ダメよ、動物を飼うなんて余裕はうちにはありませんからね」 シーナは子供を叱る母親のテンプレートのようなセリフを並べていた。 いつもならシーナに言われればすぐにしぼんで従うパピにはたいへん珍しく、その時ばかりは懸命にシーナに喰ってかかっていた。 「飛べるようになるまでの間だけでいいグリ。そしたら親のところに帰してあげるんだグリ」 「怪我は治せるの?」 「グリの治癒魔法でなんとかするグリ」 「どれくらいで治るの」 「えっと…一週間…あっ、三日、三日でいいグリ」 「ごはんはどうするの」 「グリのぶんをわけてあげるグリ」 「どこに置いておくのよ」 「段ボールとかでおうちを作るグリ」 「フンとかの掃除は?」 「お前らうるさいぞ、狭いところで朝から騒ぐな!」 たまりかねてフェルが朝食のパンを片手に注意しにくる。フェルの小言ももはやテンプレートである。 その時ワイルが円匙を取りにアジトへ帰ってきた。 不自然に食卓の隣に突っ立っている三人を見て、 「どないしたんな」 「聞いてよ、ワイル」 シーナがワイルに事の成り行きを説明している間、フェルはパピが大事そうに抱えた雛鳥を調べていて、迷惑そうに顔をしかめたが、 「そうだな…このままほったらかして死なせてしまうのも…なぁ」 やや言葉を濁した。 「世話はグリが全部するグリ」 パピが背伸びをしながら必死に言った。 ワイルは先ほどの砂浜の烏の群れを思い出していた。 トリアスは潮風に打たれながら今もあれを射ているのだろう。 「ええんちゃうの」 ワイルはあまりよく考えずに、言った。 こうしてレジスタンスのアジトの一角に、ささやかなペットコーナーが設けられた。 「エーッ、ヤダ。野鳥とか不潔じゃん」 トリアスはこの件によい関心を示さなかった。この男にはたまに妙に冷淡なところがある。 「しょうがないわよ、全部ひとりでやるってパピも言ってるから」 「嫌なら関わらんでかんまんとよ。好きにしといたったらええんじょ、わしもほっとくし」 「うん…」 シーナとワイルがとりなして、それでもトリアスは端正な顔を曇らせ、向こうへ行ってしまった。 パピは宣言通り、ひとりで雛を世話していた。破れた洋服を集めてきて綿を抜き出して雛用のベッドを作り、 治癒呪文をあれこれ試してみたり、包帯を巻き直したりと、健気に努力する様子が目立っていた。 最初は冷ややかな目で見ていたレジスタンスの戦士たちもいつしかその様子にすっかり和んでしまい、 自然とその付近で暖炉がたかれ、人々が憩うようになった。 パピはその雛をポチと名付けた。 「だっはっはっは!!ポチやいうて、犬ようなで、ははは」 珍しくワイルが煙草を吸うのも忘れて爆笑している。 「へんな名前―」 「情がうつっちゃうから、名前なんてつけちゃダメよ!」 「わっはっはっは」 「ワイルのツボってよくわかんない…」 「今日はごちそうだグリ。チントじいさんにもらったのグリ」 そこへパピが小さな円筒状の缶を両手でもってよちよちと歩いてきた。 「ま…まさかその中身は…」 トリアスがのけぞる。 パカッと缶を開けると、ささみ肉の切れ端が詰まっていた。 パピが自分のふわふわした掌にその一切れを乗せて差し出すと、雛は少し首をかしげていたが、やがてツンツンとつつき始めた。 「かわいい」 先ほどまでの厳しい態度はどこへやら、頬を緩ませるシーナと対照的に、 「なーんだ」 トリアスはシラけている。 「なにがなんだや」 「いや、ミミズがあの中にいっぱい入ってウゾウゾしてると思ったから」 「やめてよ!!想像しちゃうじゃない」 「お前はなんでほんなコギレイな顔してエグいことをちょくちょく言うんじゃ」 大人のバカな会話を尻目にパピと雛はむつまじく食べ物を分け合うのだった。 たまたま四人はこの時期、旅の任務を請け負っておらず、ローテーション的には本部待機だったので、 各自の持ち場でそれぞれに仕事をすることになっていた。 おかげで必要最低限にしか、お互いの動向には目の届かない日々が続いた。 そして数日が経過したある日、 「パピとポチは?」 「ポチが大きくなったから、裏庭で飼うって移動させてたよ」 シーナが談話スペースにいるレジスタンスメンバーと話しているところへ、ワイルとトリアスがそれぞれの仕事を終えて戻って来た。 「ちょうどよかった、二人とも」 「どないしたん」 「明日の薪集めをウチが担当することになったから、報せておこうと思って。パピのとこにも行かなくちゃ」 「タヌキ、あんじょういけよんかいな」 「最近見てないから知らないや」 ガヤガヤしながらパピのいるというチント爺さん宅の裏庭に移動した三人は、しかしそこであっけにとられて立ち尽くした。 パピは確かにそこにいて、ポチと戯れていた。 「…パピ?」 シーナが声をかけるとパピが振り向いて、嬉しそうに手をぴこぴこ振った。 「シーナ!みて!ポチがとっても元気になったグリ」 パピの背後にいる雛鳥は、傍目にも明らかに回復した様子で、小首をかしげてはパピに頭をこすりつけて甘えている。 「…アハハ」 トリアスが奇妙に裏返った声で笑った。 シーナは時間をかけて言葉を選びつつ、尋ねた。 「…。あの、パピ」 「なにグリ?」 「……それ、ポチ?」 「そうグリ」 雛鳥を撫でながらパピは答える。 「あの……そう。えっと…その、なんだか、見違えたっていうか…ちょっと」 「うんグリ!ちょっと大きくなったグリねー」 その瞬間、耐えきれなくなったワイルが、 「嘘こけ!!あほいきにでかなっとんでないか!!」 大音声でつっこんだ。 掌に包んでしまえるほどだった雛鳥は、もはや2メートルの大きさに達していた。 前から見ると大きな白い鶏に見えるが、その尾はしだいに羽毛をなくし、ぬらりと光る緑の鱗を生やして長くとぐろを巻いている。 「これってもしかして…」 「こ…こっこっこっこ、コカトリス!!!!!」 雛鳥は魔物だったのだ。 「ごはんをあげてるグリよー」 そう言っているパピは頭を雛鳥のくちばしの中にほぼ呑み込まれている。 「いやあああああ!!パピいいいいいいい」 シーナは心を許しきっていただけにショックなのか、取り乱して髪の毛を掻き毟りながらヒステリックに叫んでいる。 「やっぱり鶴の恩返しなんてあれへんかったんや…」 あまりといえばあまりの凄惨な光景に顔を覆うワイルの隣で、 「ほーらね」 奇妙なほど冷静だったのがトリアスで、スッと背中に手を伸ばして弓を構え、矢をつがえた。 「トリアス、何するの!?」 「決まってる、パピを助けるんだヨ。大丈夫、パピにはケガさせない」 つられてワイルも二刀剣を腰から抜いたが、トリアスはさらりと制した。 「コカトリスは体内に毒を持っていて、金属や水を通して毒を浸透させる。ロングレンジの武器じゃないと危険だよ」 「ほなけど、威嚇するだけやったら別にええやろ?」 「威嚇するだけ?」 「タヌキから離れさすだけよ。ほんでもう放したったら、怪我治っとんやけん、どこやかし飛んでいって自然にもんていくやんか」 ワイルの言葉をトリアスは残忍なほど無邪気に遮った。 「何言ってるの。ここで殺さなきゃ」 「え?」 「腐肉を食らった鳥はテンマになるので、その前に射殺さなくてはならない」 トリアスはうっすらと端正な顔に笑みを浮かべて詠うようにつぶやいた。 視界が夕闇に沈んでいく中、葉陰が落ちてさらに濃くなった翳を背負い弓を引き絞っているトリアスは、その森に棲んでいる幽鬼のようだった。 ぎちちち、と弦が鳴るのを聞いた瞬間背筋が寒くなるのを感じ、 「やめえ」 ワイルはトリアスの腕をつかむと、弓を強引に下げさせた。 「なんで?」 睨みつけてくるトリアスにワイルは怒鳴り返した。 「ほんなこともわかれへんのか。タヌキが可哀想やろ!?」 「あのままだとパピが食われるかもしれない」 「ほんでも、あない熱心に世話してやっとったんぞ。今殺すや惨いでないか!!」 「魔物に情の見返りを期待するなんて無駄だよ」 トリアスは普段の軽快な声のトーンも抑揚もかなぐり捨てて言い放った。 これがこの男の心からの言葉なのか? ワイルは彼の翠の瞳に昏い焔が燃えているのを見ながら、動揺を隠すために声を低くした。 「ほない優しさのわからん奴やとは思えへんかったな」 「どうして。甘いな。ワイル、優しさなんかが役に立ったときがいくらあった?美徳は裏切る速さには及ばない」 「やめてよ二人とも!!」 たまらずシーナが割って入り、杖で二人同時に殴った。ダンスと登山で体を鍛えた彼女の腕っぷしはなにげに強く、それだけでぶっ飛ぶ二人。 「ぐえっ」 「痛いよぉぉ」 「あんたたちバカなの!?そんな言い争いしてる場合じゃないでしょ」 よほどいらいらしたのか、S性を爆発させて意味もなく二人を蹴りながらシーナは怒気を帯びた声で叫ぶ。 「パピ!!早く戻ってきなさい!!」 大気中の風のラがシーナの感情の昂ぶりに引き寄せられて彼女の周囲で渦巻くので、長く美しい金髪が連獅子のようにうねり回転する。 あまりの迫力にワイルもトリアスも声を失ってしまった。 目下こちらで起こっている出来事はパピにはほとんど伝わっていなかったようで、 「うん」というかわいらしい返事とともに、パピの頭部はどこも欠けていないままコカトリスの口からヌルリと引き抜かれた。 「迎えに来てくれるグリ!だから、さびしいけど、さよならするグリ」 「…迎えに来る?」 「誰が?」 質問には答えず、パピとコカトリスは背後の夕空を見上げていた。 すると、バサッ、バサッと粗い羽音が聞こえてきた。 パピが短い手を振る。 毒々しい青色の巨大な羽根を散らしながら舞い降りたのは、女の顔と胴体を持った巨大な鳥だった。 「イャーーーーッ!!」 魔物ばりの声をあげて叫んだのはシーナである。 もちろんこれも魔物である。一般的にはサイレンと呼ばれている。 パピはひどく冷静に、サイレンとコカトリスの間に立って二匹を交互に見あげながらウンウンとうなずいていた。会話らしきものが終わるとこちらへ振り返り、 「ポチのお母さんだグリ!」 三人に向かって紹介した。 「…サイレンが?コカトリスの?」 「そういう設定あったっけ」 「わからへん」 説明されても尚理解のできない大人三人を置き去りにして話は進んだらしく、コカトリスはヨチヨチとサイレンのもとへ歩み寄っていった。 サイレンは下から上がる瞼を細め、右の青い翼を広げてこれを迎えた。 最後に振り返ってサイレンがケクケクと首を傾けた。お辞儀をしているように見えた。 人間の顔はしているものの、サイレンは鳥類と同じ数の頸骨を持っており、首の可動域が広い。 からくり人形がぐるりと首を回すようにしか見えず、シーナ達はゾッと総毛だったのだが、 まったく意に介さないパピはお辞儀にこたえて、パピは大きく手を振った。 サイレンはコカトリスを連れ、睦まじく翼を並べて枯れ森の向こうへと飛び去って行った。 二つの影が見えなくなるまで見送っていたパピは、クスンと鼻をすすると、その様子をただ茫然と見ているだけだった三人の方を振り返って言った。 「グリたちもおうちに帰るグリ」 その朝、内海はうっすらと霧がかかり凪いでいた。 フォレスチナ国へ続く長い吊り橋が、白く遠方の岬に浮き上がって見える。 まだ陽が昇る前で、手前は黒々と翳っているが、遠くへいくほど海は青かった。 灰色の砂の浜には、等高線のようにくっきりと波の引いて行った跡が浮かび上がっていた。 烏はまだ飛ばず、樹林の中でわさわさとしていた。蟹や貝が浜に取り残されるのを待っているらしい。 「どうして毎朝ここにいるの?」 ワイルが振り返るとトリアスが立っていた。 「あの橋が見たい」 トリアスが隣に来るまで待つと、ワイルはそう答え、再び水平線へ視線を戻した。 「あんなに遠いのに、大きいなあ。キレイだよね」 「お前もわたって来たんやろ」 「ボクは船で来たよ」 「ふうん」 お互いさして興味のないやり取りをしながらワイルがトリアスをちらりと見やると、弓を一式背負っていたので、 「お前、また練習しに来たんとちゃうやろな」 ワイルに睨まれてトリアスは唇を尖らせた。 「違うよ。念のため。特に意味はないよ」 「あの烏やって、お前の的になるために生きとんとちゃうけんな」 「知ってるもん」 トリアスは海に背を向けて、樹林の中にいる鳥の群れを恨めしげに眺めた。 「ボクらも鳥だよ。閉じ込められた籠の鳥だ」 「ん?」 「この海が、この島を外界から隔てている。 海を渡ろうと舟を作っても、海流に逆らえず、みんな帰ってきてしまうんだって。海の向こう側から来た人間もいない。 ボクらはここから出られないんだよ。世界が終わるまで。永遠にね」 ワイルはトリアスの言うのを、聞き流そうかと思いながら海を見つめていたが、ふと何かを思い出すように上の方へ視線をやり、 「わしは違うと思う」 急にトリアスの方をくるりと振り返って言った。 「こっから出れんけんおらなあかんかったんではない。 ここが好きやけん、わしらのご先祖さんはおることにしたんや。ほんで、ほれからずっと住んどうだけ」 トリアスが訝しげに眉を寄せると、ワイルは煙草を口から離し、煙で円を宙に描きながら、次のように説明した。 「古の魔法戦争が終わった後、エルフと人間は住む場所を分けて、決して交わらんと約束した。 どちらかがどちらかを追い出してもおかしなかった。ほなけどそうせんかった。 それは、どちらもこっから出ていきたなかったし、お互いにそう思とんのを分かっとったけんよ。 この島が特別やけん。ここに居りたかったんよ」 「……」 「誰でも生きていく権利くらい、あるでよ。 もともと、この世に種族は四つしかないんに。意味もようわからんと殺し合ってどないすん。排他的すぎたけん、エルフは滅びたんとちゃうのんか?」 「…しらないよ」 トリアスはぷいと横を向いた。すると突然、 「あかん、しまった」 ワイルが慌てた声をあげ、坂になっている砂浜を波打ち際まで駆け下りていった。 「なにが?」 追いかけてトリアスが尋ねると、ワイルは東の空をグイッと指さした。 「この時期だけ、橋のところから朝日が昇んりょんのが見える」 この海岸から見える海は内海なので、近くに幾つもの小島が点在している。 海は東側にあるのだが、朝日が昇って来ても島影になってしまい、高く昇るまで見えないことが多い。 唯一水平線が砂浜から肉眼で見える場所が、橋の向こう側なのだった。 今、太陽は橋の上にちょうど乗っかっているようにしてある。日の出の瞬間を見逃したのだ。 「…そう。それでここに来てたんだ、ワイル」 「お前がくんだら言よるせいで。わざわざ早う起きたのにから。どないしてくれるん」 ただでさえ人相が悪いのに、不機嫌になるとワイルは相当な悪人面になる。 が、朝日が見たかったという純朴な目的があったとわかると、ギャップが可笑しい。ギロリと睨まれても、トリアスは笑みをこらえきれなかった。 「…ゴメンね」 その時、陸の方からオォーッと人の声が聞こえてきた。アジトのある方角らしい。 「なんだろう」 「去ぬで」 「うん」 ギアの村まで戻ると、この早朝から、少ない村の住民たちもみんな表に出てきていた。 彼らはチント宅の周りに集まっていた。チント宅の玄関に、昨晩にはなかった奇妙な山がある。 どっさりと何かゴミのようなものが積みあがっていた。レジスタンスのメンバーの若者たちがその近くでワイワイと話している。 トリアスとワイルは近くまで寄っていった。 ゴミのようなものの正体は、ゴミだった。だが、すべて宝飾品と金属であることがわかった。 大きいものは錆びた剣、折れた杖、欠けた兜や鎧の破片などだった。 いったいいつの時代から集められてきたものか、美しい装飾が施されているのが汚れの上からでも分かる。 瓶の王冠や丸まったガラスをかきわけてよく探すと、ひしゃげた金貨、黒く酸化した純銀の鎖、 カメオのブローチ、コランダムやサファイヤの原石まであるのだった。 「鳥のニオイがする」 トリアスが言うとおり、これらの宝石には白や青の色をした羽毛と、 なにかベタベタした白かったり黒かったりするものが、ところどころにくっついているのであった。 シーナがチントの家の入口からパピを引っ張って連れ出してくると、一生懸命何か話しかけている。 パピは眠そうにしていて、よく分かっていない様子だ。 「鶴やのうて、傘地蔵やったんで」 ワイルは一人で感心して呟くと、煙草を踏み消した。 まだ事態を理解できておらず目を白黒させているパピを、シーナは抱きしめて頭を撫でまわした。 レジスタンスのメンバーは、シーナとパピを囲んで拍手をしたり歓声をあげたりして騒いでいる。 フェルもいつになく相好を崩して、自分の母親に大きく身振り手振りを交えながら何か説明していた。 ワイルはニヤニヤしながら、トリアスの背中を突っついた。 「ほらな、トリアス」 「え?」 「お前が負けじゃ。この機に考え直せよ」 トリアスは、 「なんだい。自分の手柄でもないくせに」 ぷーと頬を膨らませたが、さほど不機嫌そうでもなく、眩しそうに目を細めてパピとシーナを見ていた。 「人にやさしいしたら、ええことあるんじょ」


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